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架空戦記

「戦場の空を舞え 飛行空母九鬼」

第一部「九鬼 初出撃せよ!」

第四話
「蒼き空に生きる者と蒼き海に生きる者」

 艦載機の発進命令が下されて、編隊は一層慌しくなった。
 機下に吊られていた艦載機は、ブルルっと唸りを上げると、プロペラを勢いよく回し始めた。
 しばらくの暖機運転が続く。
 九鬼一番機の先頭に吊られている、零戦32型に搭乗している豊口大尉は、機上無線を使って、他の機の用意はいいか聞いた。
「こちらは豊口大尉よ。各機、準備はいい?」
 後方に、一列に並んで吊られている各機から返答があった。
「こちら野田、準備よし」
「山城です。いつでもどうぞ」
「こちら、ノエルです。こちらもよし」
「エメリアです…。う〜ん、ちょっとエンジンのかかりが悪いです」
「カタリナです。準備よし」
 豊口大尉は、エメリア少尉のことが気になり、聞き返した。
「大丈夫? 飛べるの?」
 すると、一呼吸置いて、エメリア少尉が返事をした。
「ええ、何とか大丈夫でしょう。ちょっとかかりが悪かっただけですから」
 ノエル中尉も、エメリア少尉を気にしてか、話に割り込んできた。
「エメリア、大丈夫ならいいけど、無理はダメよ」
 そんな優しい言葉をかけられた、エメリア少尉は嬉しくなって笑みを浮かべた。
「わかってます、ノエル中尉」
 豊口大尉は、全機の状態を確認すると、佐藤大佐に報告した。
「全機、準備よし」
 他の九鬼からも、「準備よし」の発光信号が発せられた。
 佐藤大佐が告げた。
「よし、各ツバメへ、ヒナを投下せよ!」
 九鬼は、いわゆる三角形のピラミッド型の隊形のまま、速度を最大近くの400キロまで上げた。
 本来は、最大速度は480キロなのだが、現在は艦載機を満載しているために、最大でも410キロが限界なのである。
 九鬼は、水平飛行のまま、発進態勢に入った。
 操縦室後部の整備員及び搭乗員待機所では、搭乗員が減った分広くなって動きやすくなった整備員たちが、機関制御盤を睨んでいた。
 機関制御盤の、出力計に注意しながら、発進の成功を祈った。
 ちなみに、懸架レールの制御も、この待機所で行われ、ここで遠隔操作されているのである。
 機内放送が流れた。
「艦載機、切り離し用意」
 懸架レールの懸架装置の切り離しも、この待機所の整備員の担当である。
 整備科指揮官の葉山中尉が、切り離しボタンに指をかけた。
 九鬼は、速力を上げることにより、空母が風下に向けて速力を上げて艦載機を発進させるのと、同様の効果を生み出そうとしているのである。
「一番機…投下!」
 この放送とほぼ同時に、葉山中尉が指に力を加えた。
 ブチンっと、何かが引きちぎれるような音と共に、九鬼が一瞬震えた。
 一番機が切り離されたのである。
 第000航空隊の艦載機は、吊られている最中は、翼が当然に折りたたまれている。
 しかし、どうやって、折りたたまれた翼を張るのであろうか。
 離陸してから、機外に出て翼を張ったり等は、できるはずもない。
 そこで、この第000航空隊の艦載機は、全て改良が加えられており、投下された際の落下中に、自動的に翼が伸びて、固定されるようになっているのである。
 これも、西角中尉の改良である。
 九鬼一番機から、一機の零戦32型が落とされた。
 ちなみに、この機は、第000航空隊の艦載機隊の総指揮をとる、豊口大尉の機である。
 この零戦は、指揮官用ということもあり、複座に改造されている。
 操縦を担当するのは、本田真菜飛行兵曹長である。
 その後部に設けられた偵察席に、豊口大尉は乗り込んでいる。
 切り離された直後は、ほぼ垂直に落下する。
 凄まじい圧力が、身体にかかった。
 しかし、その衝撃で翼が張られると、機体はフワッと浮き、滑空の形になった。
 ここで、ようやく操縦桿を引いて、高度を上げる。
 ちょうど、弧を描くような形である。
 豊口大尉は、さすがに初めての発進訓練であったためか、機首が持ちあがると、「はぁ」と息を漏らした。
「なんとかなったわね。本田兵曹長、良くやったわ」
 伝声管で、操縦席に向けて話した。
「さすがに緊張しましたが、上手くいって良かったです」
 続けて、二番機、三番機と投下されては、機首を上げて行く。
 三番機の零戦も、高度を上げて、豊口大尉の機の左斜め後ろについた。
 そこで、隊内無線電話を使って、山城二等飛行兵曹が、二番機の野田一等飛行兵曹に話しかけた。
「瞳さん、なんか最初の、ヒュ〜って落ちるとこ、面白くありませんでした?」
「面白いっていうか、怖かったわよ」
「そうですか〜? すごい面白かったですよ」
 山城二等飛行兵曹は、無邪気に笑って、はしゃいでいた。
 彼女にとっては、切り離し後の一時的な落下が、今でいうジェットコースターのように感じたのであろう。
 豊口大尉は、二人の会話を聞きながら、笑っていた。
 普通ならば、許可のない無線使用は叱るべきなのかもしれないが、豊口大尉は、あえて目を瞑った。
 佐藤大佐も、この会話を聞いていた。
 佐藤大佐もまた、笑っていた。
「ははは、まったく気楽なやつだ」
 続いて、四番機、五番機と投下された。
 これも、グイっと機首を上げて、上昇した。
 今のところは、順調である。
 後は六番機が無事発進出来れば、とりあえず合格である。
 機内放送が告げる。
「六番機、投下用意」
 一呼吸置いて、続けた。
「六番機…投下!」
 最後の艦載機が、各九鬼から投下された。
 この時である。
 九鬼四番機から投下された、九九式艦上爆撃機が機首を中々上げなかったのである。
 その異常に気づいた、前部右側面機銃員の清水一等飛行兵曹が、伝声管に叫んできた。
「四番機の九九艦爆に異常!」
 佐藤大佐は、操縦室の観測窓に顔を張り付けた。
 九鬼四番機の下方を確かに九九艦爆が落下している。
 機首を上げる気配がない。
 翼は、しっかりと張られているのにも関わらず、機首を上げようとしないのだ。
 よく見ると、プロペラが回っていない。
 どうやら、エンジンが突然止まってしまったようだ。
「まずい! エンジンが動いてないぞ!」
 佐藤大佐が、そう叫ぶが、どうすることもできない。
 九九艦爆の搭乗員は、何とかエンジンを再始動させようと、必死になっていた。
 だが、落下による圧力が凄まじく、上手くエンジンをかけられない。
 とりあえず、翼は開いている。
 そこで、彼女は操縦桿を引いて、滑空して時間を稼ぐことにした。
 それにより、身体にかかる落下の圧力も和らいだ。
 その隙に、エンジンをかけようと、躍起になった。
 ブルルル…、ブルルル…。
 かかりそうでかからない。
「母さん…、もうダメかな…」
 九九艦爆の搭乗員の少女は、一言呟いた。
 ブルルルル、ブルルッ!
 三菱の「金星」発動機が唸りを上げた。
 地表の間近で、九九艦爆は機首を持ち上げて、高度を上げた。
 佐藤大佐は、安堵の声を漏らした。
「はぁ…、まったく驚かせてくれる」
 佐藤大佐は、無電士席の機上無線電話のマイクをとった。
「今の九九艦爆の搭乗員、応答しろ。こちらは、佐藤大佐である」
 すると、慌てた口調で返答があった。
「は、はい! ツバメ4(九鬼四番機)所属、山木飛行兵長です」
「大丈夫か?」
「はい! 大丈夫です。申し訳ありません」
「いや、別に怒る気はないから、そんなに必死に謝るなよ。無事でよかった、そう言いたかっただけだ」
「…はい。本当にすいませんでした」
 佐藤大佐は、意外に元気そうな搭乗員の声を聞いて安心した。
 とりあえずは、全機の発進が終わった。
 まあ、何とか合格点だろう。
「よし、とりあえずはいいだろう。姫宮上飛曹、各機に帰還すると伝えろ」
 無電士の姫宮上等飛行兵曹は、素早く各機に伝えた。
「九鬼及び艦載機隊に告ぐ、訓練終了、各機帰還せよ。繰り返す、各機帰還せよ」
 九鬼と九鬼飛行隊は、何とか訓練を無事終えて、大阪伊丹飛行場へ帰還した。

昭和18年2月2日
 初の艦載機搭載飛行訓練及び発進訓練は一応は成功に終わった。
 25日以降も、二回の搭載及び発進訓練を行った。
 一応ではあるが、不備のないほどに錬度は向上したと言っていいだろう。
 後は、作戦の開始命令を待つだけとなった。
 佐藤大佐は、整備を受けている九鬼を眺めていた。
 整備員たちが、忙しそうに走り回っている。
 佐藤大佐は、近くにいた整備員に、「しっかり頼むぞ」と言って司令部の方に戻った。
 その頃、伊丹飛行場に一人の海軍少佐が到着した。
 その海軍少佐は、だだっ広い滑走路を見て、珍しげに眺めていた。
 そこに、3人の少女兵が通りかかった。
 それは、姫宮上等飛行兵曹と瀬戸飛行兵長と長谷川上等飛行兵曹である。
 その3人に気づいた少佐は、声をかけてきた。
「あ、そこのあんたたち。そう、そこのあんたたちよ」
 3人は、顔を少佐の方に向けた。
 見慣れない少佐だった。
 気の強そうな、ボーイッシュな少佐だった。
 パッと見た瞬間には、男かと思ってしまった。
 それでも、じっくり見ると、かなり魅力的で美人な人であった。
 姫宮上等飛行兵曹が聞いた。
「何か御用ですか?」
「あんたたち、第000航空隊の隊員でしょ?」
 3人は顔を見合わせて、頷いて見せた。
「ええ、そうですけど」
「やっぱり。噂じゃ聞いてたけど、ホントに女の子ばっかりなのね」
 瀬戸飛行兵長が言った。
「あの、それで何の用なのでしょうか? 少佐」
「ああ、そうだった。佐藤大佐に会わせて欲しいのよ」
「佐藤大佐ですか? わかりました、ご案内します」
 3人は、司令部の方に少佐を案内した。
「大佐には、どなたと言えばよろしいのですか? お名前をお聞かせ下さいませんか?」
 長谷川上等飛行兵曹が聞いた。
「私は、藤井桃少佐よ。でも、佐藤大佐とは初対面だから、言ってもわからないと思うわ。今度の作戦で共同作戦をとることになって、ここに来たってわけよ」
 3人に案内されて、藤井少佐は佐藤大佐の部屋の前まで来た。
 瀬戸飛行兵長が、扉をノックした。
「大佐、藤井少佐という方が、大佐にお会いしたいと言ってます」
 佐藤大佐は。ちょうど机上で書類の整理をしていた。
 机上の仕事は、あまり好きではなかったので、ちょうどいいと思い、佐藤大佐は「入れ」と答えた。
「失礼します。藤井少佐、どうぞ」
 佐藤大佐は、机から立ち上がって、藤井少佐の前まで歩んだ。
「初めまして、藤井桃少佐です。今度の作戦で共同作戦をとることになりまして、その作戦会議に出るために来ました。どうぞよろしく」
 佐藤大佐は、他の部隊と共同作戦をとるなど初耳だったので、つい怪訝な表情をしてしまった。
 それでも藤井少佐は、気にする様子もなく握手を求めて来た。
 佐藤大佐も、藤井少佐の手を握り返した。
「ふむ、共同作戦か。そういうことなら、よろしくな」
 佐藤大佐は、今いち納得いかなかったが、愛想笑いをした。
「ところで、藤井少佐は何に乗ってるのかね?」
「はい、潜水艦であります」
 潜水艦と聞いて、佐藤大佐はどうやって連携できるのだろうと、疑問が頭に浮かんだ。

…続く

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