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架空戦記

「戦場の空を舞え 飛行空母九鬼」

第一部「九鬼 初出撃せよ!」

第一話
「第000航空隊発足す」

「至急、大阪伊丹飛行場へ出頭せよ」
 自らが艦長を勤める、軽空母「龍鳳」の艦橋で、突然この命令を受けた。
 佐藤大佐は、突然のことであった所為か、この命令を伝えに来た水兵に聞きなおしてしまった。
「え、何だと?」
「至急、大阪伊丹飛行場に出頭せよ、とのことです。転任命令だそうです」
 転任と聞いて、多少驚いた。
 佐藤大佐は、軽空母とはいえ、一空母の艦長なのである。
 それを、いきなり艦の中心である自分を転任させるというのだ。
「上層部の連中は、相当俺のことが嫌いらしいな。ついに、空母から俺を引き離そうって訳だな」
 つい、佐藤大佐は呟いた。
 佐藤大佐は、開戦以来、航空参謀として第一航空艦隊空母赤城に乗艦していた。
 それはそれは、優秀な航空参謀として、人望もあった。
 しかし、上層部の連中は例外だった。
 佐藤大佐は、軍規や規律の厳しい軍隊の中にいながら、上官に何度となく噛み付いた。
 それは、上官の考えがあまりに納得のいかない考えだったり、部下を無駄にしなせるような考えだったりしたからである。
 実のところ、第一航空艦隊司令長官の南雲忠一長官にも、何度も何度も噛み付き、赤城の参謀連中からは随分と嫌われた。
 そして、昭和17年6月のミッドウェー海戦、連合艦隊は大敗を喫した。
 佐藤大佐は、空母赤城を失い、重症を負ったものの、生還することが出来たのである。
 その後、三ヶ月を入院に要したものの、退院後は軽空母の艦長に就任したのである。
 それが、いきなりの転任命令だ。
 ふざけるな!…と叫びたいくらいの悔しさがこみ上げてきた。
 しかし、さすがに軍令だけには逆らえなかった。
 すぐに、零式水上偵察機に乗り込み、後ろ髪を引かれる思いで、軽空母龍鳳を後にした。
 
昭和18年1月15日
 佐藤大佐は、本土に着くと、すぐに零式輸送機に乗り換えて、大阪伊丹飛行場へと向かった。
 快晴だった。
 小さな千切れ雲が、いくつか浮いているだけだった。
 零式輸送機は、滑走路の誘導員の指示に従い、滑走路に着陸した。
 見事な三点着陸だ。
 機を降りると、そこには若い海軍士官が待っていた。
 海軍士官は、かかとを鳴らして敬礼した。
「ご苦労様です。佐藤大佐の到着を心待ちにしておりました」
 この若造、何を歯の浮くような台詞を吐いておるのか、と内心思った。
 だが、あえて口には出さずに敬礼で返した。
 そこに、一人の将官が近づいてきた。
「やあ、佐藤大佐。ひさしぶりじゃないか」
 そこには、第二航空戦隊司令官、山口多聞少将が立っていた。
 ただし、元第二航空戦隊司令官である。
 あの忌まわしいミッドウェー海戦で、山口少将の空母飛龍も失われてしまったからだ。(史実では、ミッドウェー海戦で山口少将は空母飛龍と共に海中に没している)
 あの海戦以来、山口少将とは会っていなかった。
 山口少将は、空母赤城で浮いていた佐藤大佐を、随分と気に入っていた人物の一人だった。
 航空主兵論者である山口少将は、それでいて旧体制の軍を忌み嫌っていた。
 そのためか、斬新というのか、アホとでもいうのか、上官に噛み付き続ける佐藤大佐を、気に入っていたのである。
 二人で、南雲長官の悪口を言い合ったりもした。
「あんな水雷屋の南雲長官じゃ、この空母部隊も宝の持ち腐れですよ。こんなんじゃ、いつかこの艦隊はやられてしまいますよ」
「本当にそうだな」
 皮肉にも、この通りになってしまった訳であるが…。
「山口少将! お久しぶりです」
「ああ、本当に。よく来てくれたな、佐藤大佐」
 山口少将は握手を求めた。
 それに答えて、佐藤大佐はがっしりと握手で返した。
「それでは、ここの自分を呼んだのは、山口少将なのですか?」
「ああ、そうなんだよ。佐藤大佐、君にはこの帝国の未来を左右するやもしれない重要な任務について貰いたい」
 帝国の未来を左右するとは随分大げさな話だ、と半信半疑であった。
 山口少将は、巨大な格納庫に案内してくれた。
 そこには、あまりに巨大な航空機があった。
「な、なんですか、これは! で、でかい!」
 それは、あまりにも巨大だった。
 まるで、あの巨人のガリバーの周りの小人の一人にでもなったかのような気分だ。
 全長は、60メートルはありそうである。
 エンジンは右に四発、左に四発、機首に一発の計九発。
 まさに巨人機だ。
「飛行空母『九鬼』だ。すごいだろう」
「飛行空母ですって?」
「ああ、この九鬼は、艦載機を6機搭載できる。まさに、空飛ぶ空母だ」
 満足そうに笑みを浮かべた山口少将は、一呼吸おいてから話を続けた。
「ミッドウェーの戦いの後、この飛行空母九鬼を中心とする部隊の設立に全力を尽くした。これからの戦いは、航空機が勝負だ。それでいて、海戦の主力は空母であり艦載機だ。しかし、冷静に考えてみろ。空母が空を飛んだら、どんなに有効な戦いが出来ると思うかね?」
「空母が空を飛んだら…、そうですね、移動が随分と機敏になるでしょうし、上手くすれば奇襲だって出来るかも…」
「そうだ。敵はレーダー技術の進歩で、早期に我々を発見して、迎撃機を上げてくる。今や、奇襲は不可能と言ってもいい。だが、空飛ぶ空母があるとすれば、確かにレーダーに引っかかる可能性はあるが、高高度からの侵入や、低高度からの侵入、さらに迅速な移動により、奇襲を可能とする希望が生まれる」
「なるほど…。確かに可能性はありますね」
 佐藤大佐は、首を数回縦に振った。
「しかしだ、こんな前代未聞の機体を、従来の旧体制の考えを持つ馬鹿共に扱える訳がない。そこで、君のような将校を司令官に据えたいと思い、派遣して貰った訳だ」
「この部隊を…私がですか…?」
「そんな情けない声を出すな。あの南雲長官に噛み付くくらい、威勢のよかった佐藤大佐は、どこへ行ったんだ」
 山口少将は、佐藤大佐の肩をポンポンと叩いた。
 実際、こんな未知数の兵器を運用するのは怖い。
 だが、山口少将の期待に添えられないのも申し訳ない話だ。
 佐藤大佐は、かかとをカチッと鳴らして、敬礼した。
「わかりました。山口少将の期待に添えますよう、全力で奮戦いたします」
「それでこそ、佐藤大佐だ」
 山口少将は、また満足そうな笑みを浮かべた。
「ところで、この部隊は、どのような構成になってるのですか?」
 部隊を率いる以上、現在の状況を知っておく必要がある。
「今のところ、九鬼は5機で編成されている。さらに1機につき艦載機は6機、計30機の艦載機がある。隊員は、もう何度も九鬼を飛ばしているから、操縦に関しては心配はないと思う。まだ若い連中だが、いい腕前だよ」
 どうやら、隊員たちは、随分と前から訓練を行っているようだ。
 そんなところに、いきなり司令官として配属されて、自分を司令官として認めてくれるのだろうか。
 佐藤大佐は、一抹の不安を抱いた。
「さてと、隊員たちがいる宿舎に案内しよう。君のことを紹介しなくてはな」
「あの…、若い連中…と仰いましたよね? そんな連中が、いきなり私が入ってきて、司令官として認めるでしょうか?」
 佐藤大佐を促す山口少将に、佐藤大佐は不安を打ち明けた。
「大丈夫だ。彼女たちは、そこらへんの陸軍や海軍の連中とは違って、柔軟な考えの持ち主だよ」
「彼女たち…?」
 山口少将は、しまった!…とでも言いたそうに、表情を緩めた。
「いやいや、まあ行ってみればわかるさ」
 腑に落ちない表情の佐藤大佐を、山口少将は背中を押して宿舎に向かうように導いていった。
 宿舎に向かう二人の上空を、一機の零戦が通り越していった。


続く…


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