願望小説
「大佐の妄想劇場」
〜俺の愛した義妹〜
四章
「異常な片思い」
俺の住む街を、綺麗な夕日が真っ赤に染めている。
その夕日も、もう半分以上が街の中に吸い込まれるように沈んでいる。
俺は、そんな夕日を見つめながら家路を急いでいた。
ようやく外洋演習が終わったのだ。
早く家に帰りたい。
三日も家を留守にしているのだから、残した妹たちが心配で仕方がないのだ。
自然と、歩くペースも早足になる。
それにしても、顔がズキズキする。
まったく、自分でも馬鹿をしたものだ。
綾香君を助けるためとはいえ、無謀なことをした。
今思うと、俺のやったことは、随分と馬鹿げた行為だったような気がする。
ま、過ぎたことを後悔しても始まらない。
それに、綾香君を助けられたし、男として間違ったことはしていないはずだ。
俺は自分でそう納得すると、さらに歩くスピードを早めた。
いつもなら30分はかかる道のりを、気づけば15分で歩いてしまっていた。
久しぶりの我が家だ。
さほど大きい訳でもなく、そこいらにある普通の家だが、俺にとってはたった一つの大事な我が家だ。
玄関のドアノブに手をかける。
軽く回して見ると、鍵がかかっていない。
まったく無用心だ。
後で、美奈によく言っておかなければ。
俺はドアノブを回して、ドアを開けた。
そしていつもの一言。
「ただいまぁ!」
すぐに反応があった。
「おかえりなさ〜い、お兄ちゃん」
と、リビングから佐奈が飛び出して来た。
「おかえり、お兄ちゃん」
美奈は、二階からゆっくりと降りてきた。
二人は、玄関に出るなり、すぐに俺の顔に気づいた。
「わ、お兄ちゃん、どうしたの? その顔っ!」
美奈が、心配そうに言った。
「いたそぉ〜」
と、佐奈も美奈の傍らで顔を歪めている。
「ははは、ちょっとヘマしちゃってな。でも、大丈夫だよ。手当もちゃ〜んとしたから、心配するな」
俺は笑うと痛む顔を、無理に笑わせた。
「本当に大丈夫?」
美奈が再度聞く。
「大丈夫、大丈夫。こんなもん、帝国海軍精神ですぐに治るさ」
「…そっか。とにかく、おかえりなさい、お兄ちゃん」
美奈は、何とか納得すると、笑顔でこう言った。
俺は軍靴を脱ぐと、少し汚れた第二種軍装のまま、リビングに入った。
たった三日だと言うのに、何もかもが懐かしく感じる。
俺は、リビングに入ると、なんともいい匂いを感じた。
リビングには、豪勢な夕食が用意されていたのだ。
もう、時計は8時を指そうとしているのに、俺の帰りを夕食も食べずに待っていてくれていたようだ。
「おお、すごい料理だな」
「へへぇ、お兄ちゃんが帰って来る日だから、ちょっと頑張っちゃった」
美奈が悪戯小僧のように、鼻の下に人差し指をあて、二、三度前後に動かす。
「私もいっぱい手伝ったんだよ〜」
と、佐奈も胸を張る。
俺は、美奈と佐奈の頭を、両手で同時に撫でた。
「そうかそうか、お兄ちゃん、とても嬉しいよ。でも、先に食べてて良かったのにな」
「お兄ちゃんのために作ったんだから、お兄ちゃんがいないと意味ないもん」
と、美奈が撫でられて乱れた髪を直しながら言った。
「しかし、ちょっと量が多すぎないか? 三人で食えるかなぁ?」
俺は、その量の多さに驚いて言った。
「ちょっと、調子に乗りすぎちゃったかな? あはははは」
美奈が、苦笑した。
「ねぇ、美奈お姉ちゃん、お兄ちゃん、早く食べようよ」
佐奈が急かした。
「そうだな、着替えは後でいいや。俺も腹へって死にそうだ」
俺は、軍服の第一ボタンを外して、席についた。
美奈も佐奈も、それぞれ定位置に着く。
「それじゃ、いっただっきま…」
ピンポ〜ン、とインターホンが鳴った。
たくっ、いただきますの最中に鳴るかなぁ〜。
と、俺は心の中で悪態をついた。
俺が、重い腰を上げかけると、美奈がそれを制した。
「あ、いいよ、お兄ちゃん。私が出てくるから」
美奈が玄関に出た。
ドアを開けると、お兄ちゃんと同じ、白い軍服を着た青年と、あまり見慣れないスカートのついた水兵服を着た女性が立っていた。
美奈は、その軍服の青年が、お兄ちゃんの友達の村神だと、すぐに気づいた。
一応は親友である村神は、時々ではあるが、佐藤家に遊びに来たことがあるので知っていたのである。
お兄ちゃんの友人の中では、美奈と佐奈も気を許した数少ない人物の一人である。
「よ、美奈ちゃん、久しぶり」
「あ、こんばんわ、村神さん。お久しぶりです」
美奈は、常識的な挨拶をした。
「佐藤はもう帰ってきてる?」
「はい、すぐに呼んできます」
美奈は、二人を玄関に入れると、すぐにリビングに行った。
「お兄ちゃん、村神さんと、知らない女の人が来てるよ」
「村神と女の人?」
俺はすぐに綾香君のことが浮かんだ。
俺は、すぐに玄関に出た。
美奈と佐奈も続いた。
「おう、村神、どうしたんだ? それに綾香君まで」
「どうしたもこうしたもないだろ、外洋演習が終わったら、お前、すぐに帰っちまうんだもんなぁ。せっかく、俺が飲みに誘おうとしたのによ」
「それはすまなかったな。早く家に帰りたくてさ。それで、綾香君はどうしたんだ?」
「綾香ちゃんも、お前を誘うつもりだったんだと。でも、綾香ちゃんはお前が帰ったって言ったら、だったら住所を教えて欲しいって言うからさ、こうして着たって訳さ」
と、村神は笑いながら言った。
その傍らでは、綾香が恥ずかしそうに水兵服のスカートの裾を掴んで弄っている。
「ふ〜ん、そうなのか。で、綾香君、俺に何か用なのかい?」
「い、いえ、その…、私も…佐藤少尉と飲みにでも行きたいなぁ、と思っただけで」
「そうか、でもごめんな。今から、飲みには行けないんだよ。夕食がまだで、今食べるところでさ」
俺は、申し訳なさそうに言った。
「お兄ちゃん、だったらみんなでご飯食べたらどうかな? ちょうど、作りすぎちゃったし」
美奈が提案した。
しかし、俺はその提案を聞いて、眉をしかめた。
なぜなら、美奈はまだいいのだが、佐奈はひどい人見知りをする。
まったく知らない綾香がいては、佐奈が気ばっかり張って可哀想ではないか、そう思ったのである。
佐奈は綾香がいる所為か、さっきから俺の後ろに隠れてしまっている。
俺は、後ろを振り返り聞いた。
「佐奈、みんなでご飯を食べてもいいかな?」
佐奈は、不安そうではあるが、コクンと頷いた。
ちょっと可哀想だが、仕方がないか。
「なら、みんなで夕食でもどうだい? 三人じゃ食いきれないくらい作っちゃってさ」
という訳で、俺たちはみんなで夕食を取ることにした。
リビングは、五人でも余るくらいの広さがあるから問題ない。
とりあえず、紹介はしといた方がいいな。
「綾香君、この二人は俺の妹の美奈と佐奈だよ」
「美奈、佐奈、この人は俺と同じ艦に乗ってる、鬼土綾香君だ」
まず、綾香が口を開いた。
「よろしくね、美奈ちゃん、佐奈ちゃん」
「はい、美奈です。よろしくお願いします」
「………」
美奈が、佐奈に気づいて促した。
「ほら、佐奈ちゃんも挨拶しなきゃ」
「…佐奈です」
俺は、やはり二人を上げるべきではなかったかと、後悔した。
佐奈は、ひどい人見知りだからな。
佐奈は、まるで機嫌の悪い子供のように、俺の腕に自分の腕を絡めて寄りかかった。
俺たちは、美奈と佐奈の料理に舌鼓を打ちながら、何でもない世間話をしていた。
しかし、その内に夜も徐々に更け、酒が入り始めた。
と言っても、俺は酒が苦手なので、少量をちびちびと飲んでいた。
海軍での話しばかりになり、美奈と佐奈はつまらなそうだ。
佐奈は、早々とウトウトし始めたので、俺は佐奈を部屋のベッドまで運んだ。
時計は、もう11時を指している。
美奈も眠いだろうに、中々寝ようとしない。
「美奈、まだ寝ないで平気か?」
「う、うん、まだ平気だよ」
美奈は、意地になっているように見える。
それは、ちょうど酒が回った綾香が、やけに俺にまとわりつき始めてからだ。
「ねっ、佐藤少尉、佐藤少尉って、今付き合ってる人っているんですか?」
頬を赤らめた綾香が、さっきの佐奈のように腕を絡めて聞いてきた。
美奈は、それを不服な表情で見ている。
「ん、別にいないけど…」
「そっかぁ、だったら、私、立候補しちゃおうかなぁ」
「馬鹿言え、冗談を…」
と、俺が言いかけると、綾香は俯いて呟いた。
「…じゃないもん」
「…冗談じゃないもん」
俺は、まったく酷い酒乱だな、と呆れた。
しかし、美奈はその言葉が随分と気に食わなかったようだ。
「お兄ちゃんは駄目。お兄ちゃんは、私たちのですよ」
と、美奈も負けじと、腕を絡めてきた。
「おいおい、美奈。綾香君は酔ってるんだよ。酔っ払いの言葉を本気にするなよ」
「冗談じゃないもん。酔ってるから言ってるんじゃないもん」
「はいはい、そうだね、綾香君」
俺は適当に聞き流した。
まったく、まいったな。
まさに両手に花だが、これじゃあなぁ。
その夜は、大変だった。
綾香は、最後には脱ぎだすし、村神は酔いつぶれて役に立たないし。
さらには、美奈も俺と綾香を二人にしまいと必死で起きていようと、コーヒーを何杯も飲むし。
まさに修羅場だった。
結局、気づくと俺たちはリビングで雑魚寝していた。
美奈と綾香は、俺を挟むように寄り添って眠っていた。
俺は、かなり疲れた。
女ってのは怖いって言うが、本当だな。
時計は、六時を指している。
もう一眠りするか。
俺は、再びゆっくりと瞼を閉じた。
次回予告
「ね、眠いよぅ…」
「美奈お姉ちゃん、大丈夫?」
「う、うん、なんとかね」
「無理して起きてるからいけないんだよ」
「だって、お兄ちゃんと綾香さんを二人にしたりしたら…」
「って、美奈お姉ちゃん、予告、予告っ!」
「あっ、ええと、次回は…綾香さんがお兄ちゃんに迫っちゃうの。え〜、そんなの嫌だよぉ」
五章「急接近(仮)」乞うご期待!
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