願望小説
「大佐の妄想劇場」
〜俺の愛した義妹〜
一章
「三人で生きていこう」
俺の枕元で、ピピピッという機械音が響いた。
その音で俺は、ふと目を覚ました。
いつも嫌でも目に入る、俺の部屋の天井が視認できた。
枕元に手を伸ばし目覚まし時計の頭を叩く。
機械音は鳴り止んだ。
もう朝か…、いつもながら朝は苦手だ。
時計は、朝の七時前を指している。
いつもなら二度寝するところだが、今日は何故か目がさえてしまった。
さてと…起きるかな…。
突然、階段をドタドタと駆け上る音が響いた。
これもいつもの事なので、階段を駆け上る張本人が誰かはわかっている。
そして、俺の部屋の扉が開いた。
開いた扉から、少女が顔を覗かせた。
「おはよう、お兄ちゃん。うわぁ、珍しい。お兄ちゃんが自分で起きてる、今日は雨かな…なーんてね」
少女はクスクスと笑った。
「もうご飯できるから、早く下りて来てね」
扉がバタンと音を立てて閉められた。
ほぼ同時に、再びドタドタという音が響き、その音が遠のいていく。
何を隠そう、今の少女は俺の妹だ。
俺、佐藤泰叉(さとうたいさ)には、二人の妹がいる。
だが、その二人とは血が繋がっていない。
そう、義理の妹なのである。
まっ、これには色々と複雑な事情があるんだが…。
俺は、いつもの軍服に袖を通した。
そしてボタンを留めていく。
俺は新生大日本帝国の少尉なのだ。
この国は、現在は新生大日本帝国という名で、世界一の軍事国家となっている。
元々は大日本帝国という軍国主義国家だったが、1941年に始まった太平洋戦争で敗北し、その後アメリカの占領下から独立したものの、それは事実上の属国化であったのだ。
そんな中、1998年に第二次太平洋戦争が勃発する。
日本は、極秘開発していた新兵器を導入し、瞬く間に勝利を収めていき、2001年8月15日にアメリカ合衆国は完全降伏した。
そして、2002年、日本は新生大日本帝国と改名された。
アメリカは降伏後、日本の出す条件を次々と呑まざるを得なくなり、遂には大幅な軍縮、日本の属国化をやむなきとした。
それに伴い、アメリカ合衆国は、アメリカ民主主義日本国という名に改名された。
そして、世界情勢は新生大日本帝国が中心となりつつある。
とは言っても、俺は第二次太平洋戦争時には、海軍兵学校で幹部候補生として勉学に励んでいたので、実際の戦闘に出たことはない。
まあ、上手いこと戦争が終わった後に卒業し、今日に至るというわけだ。
俺は、軍服に着替え終わると、階下へ下りた。
ダイニングに入ると、一人の少女が椅子に座っている。
「お兄ちゃん、おはよう。今日は珍しく早いね」
少女は意地悪な笑みをこぼしている。
俺は、苦笑して、この少女の正面の椅子に腰掛けた。
そこに、台所から先ほどの少女がお盆を持って現れる。
「あっ、お兄ちゃん、遅いよぉ。じゃ、ご飯にしようか」
この俺を起こしにきてくれた少女が、俺の上の妹である。
名を、佐藤美奈(さとうみな)という。
美奈は、中学2年生で14歳。
かなりのしっかり者で、家の家事全般を担当してくれる。
俺は家事が、大の苦手なので本当に頼もしい限りだ。
少し栗色かかった髪が特徴的で、短く二本の三つ編みが肩の辺りまで伸びている。
俺が言うのも何なんだが、かなり可愛い部類に入ると思う。
中学2年と言えば、大人の女になるステップの丁度中間点とも言える時期なので、微妙に発展途上な身体が艶かしい。
聞くところによれば、美奈は少しばかり胸がないことを気にしてるらしい。
だが、俺は胸がない方が好きなので、あえて何も言わない。
朝はいつも朝食を作ってくれる。
中学の制服の上にエプロンという格好が、俺は大好きだ。
美奈は、そういう格好が、男をそそらせるという事をまだ知らないようだ。
だからこそ心配で仕方がない。
兄としては、可愛い妹がいるのは嬉しいが、反面心配で心配でたまらない。
俺の真正面に座っている少女は、俺の下の妹で、名を佐藤沙奈(さとうさな)という。
小学6年生で12歳だ。
少々生意気な所もあるが、基本的には素直で優しい娘だ。
美奈と比べれば、活発的な性格が目立つという所か。
沙奈は、栗色かかった髪の美奈とは違い、特に黒が濃い髪色をしている。
佐奈は、サラサラのストレートヘアーがとても綺麗だ。
風に流されている佐奈の髪に、兄ながら見惚れてしまったこともあるくらいだ。
佐奈も、可愛い顔立ちで、とても魅力的だ。
12歳の少女らしい子供っぽい顔つきだが、俺はそっちの方が好きなので、これまた問題ない。
俺が二人と出会ったのは、3年前のことだ。
俺は元々、何でもない一般家庭の一人息子だった。
だが、ある日のこと、突然、親父と母さんは離婚した。
俺は、本心では母さんの方について行きたかった、だが母さんに迷惑をかけたくないという理由から、あえて親父について行くことにしたのだ。
その数ヵ月後、親父は再婚した。
その再婚相手の娘が、今の俺の妹というわけだ。
俺と美奈と佐奈は、出会うのとほぼ同時に、すぐに意気投合した。
俺は可愛い妹が出来て嬉しかったし、美奈と佐奈もすぐに俺を兄として認めてくれた。
初めて「お兄ちゃん」と呼ばれた時の感激は、今でも覚えている。
ただ一つ俺が悩んだのは、再婚相手の女の虐待だった。
その女の虐待の対象は、俺ではなく美奈と佐奈だった。
俺はあくまでも親父の子だ、親父に嫌われまいとして、俺には叱ることもなければ殴るようなこともなかった。
だが、美奈と佐奈に対しては、度を過ぎた叱り方をしていたのだ。
あれはもう叱るというレベルではなく、暴行と言っても過言ではないだろう。
どうやら、その女は離婚すると同時に、美奈や佐奈を虐待するようになったらしい。
恐らくは、離婚問題のストレスを発散させるための、属に言う八つ当たりが元になっているのだろう。
それが今日になっても抜けず、続けられていると俺は思った。
俺は、美奈や佐奈が暴行を受けているのを見るのがとても辛かった。
とても耐えられるものではなかった。
だが、相手は親父の再婚相手、そうそうに手は出せない。
俺は、美奈と佐奈の悲痛な声を聞くたびに、心の中で謝った。
『美奈…佐奈…、ごめん、ごめんよ…』
美奈は殴られながらも、俺の方を向いて助けを求めるような表情を浮かべていた。
俺は、そんな美奈を見て意を決した。
その女の腕を掴み、二人に対する暴行を止めたのだ。
俺は、この時に決めた。
美奈と佐奈は俺が守って行こう…と。
俺はそれから、いられる限りの時間を美奈と佐奈と共に過ごした。
それからは、あの女の虐待も見られなくなった。
そうしてようやく落ち着いたかに見えた時、親父とあの女が死んだ。
何でも、二人で飲みに行き、その帰りに飲酒運転で暴走したあげくに、対向車線から来た大型トラックに正面衝突したらしい。
即死だった。
俺と美奈と佐奈は、二人のグチャグチャになった遺体を前にした。
だが、不思議と涙はこぼれなかった。
当然と言えば当然かもしれない、俺は離婚の原因を作った親父が嫌いだったし、あの女は美奈と佐奈に乱暴をするから大嫌いだった。
あんな奴らに泣いてやる義理はない。
しかし、美奈と佐奈は、ボロボロと涙で顔を汚していた。
あんな女でも母親って訳か…。
最後に涙を流したのっていつだったかな…。
俺は、二人の姿を見ながら、そんなことを考えていた。
その後で起こったのが、俺たちの引き取り問題だった。
元々、俺にも美奈と佐奈にも親戚が少なかった。
だが、ある東北の親戚が、一人だけなら引き取ると言ってきた。
俺は、この時も悩んだ。
一人と言う事は、引き取られた人間以外は施設に送られることになる。
俺は施設に送られようと、そうでもなくても生きていこうと思えばどうとでもなる。
だが、美奈と佐奈をバラバラにはしたくなかった。
仮に俺が引き取られたら、美奈と佐奈は施設で恐らくバラバラにされる。
かと言って、二人の内一人を引き取らせても同じことだ。
俺は、美奈と佐奈を連れて直談判に行った。
だが、その親戚は一人という条件は変えてくれなかった。
それ所か、俺を引き取りたいと言ってきた。
この新生大日本帝国では、家系に一人でも軍人がいると、それだけで名誉だったのだ。
俺は当時は、幹部候補生として海軍兵学校の真っ最中だった。
だが卒業すれば軍人として働くことになる。
この親戚は、そんな下心を持って、引き取ると言ってきたのだ。
しかも一人と言ってきた裏には、俺をどうやっても来させるようにするという企みが含まれていたようだ。
俺は、そんな私利私欲のために引き取りを表明した親戚のやつらが憎かった。
俺は美奈と佐奈の手を引っ張り、この家を飛び出した。
親戚は引き止めようとしたが、俺はもう道を変えるつもちはなかった。
「俺はあんたらの厄介にはなんねぇ。俺は…俺たちは、俺たちだけで生きていく。あんたらには迷惑はかけないよ」
美奈と佐奈が不安げに俺を見ていた気がする。
美奈は俺と目が合うたびに、怯えた表情で視線をそらした。
俺はあまりの怒りで、相当な形相をしていたのだろう。
俺は二人の手を引っ張ったまま、無言で歩き続けた。
そして、とある小さな公園のベンチに腰を下ろした。
俺は、二人を横目に見たがどうも態度がよそよそしい。
「どうした美奈、佐奈。あんな親戚の奴らが言ったこと気にするなよ」
俺は無理に笑顔を作った。
すると、美奈と佐奈は涙を流した。
「…ごめんね、お兄ちゃん。私たちがいるから…お兄ちゃん、あの家に行けないんだよね。私たちはどうなってもいいから、今からあの家に謝りに行こうよ…」
俺は、そんな健気な妹たちを見ていると、瞳が潤んだ。
こんな小さな身体で、こんなにも俺のことを考えてくれている。
俺のためなら自分たちはどうなってもいいと言う。
俺は、こんな妹たちが不憫で仕方がなかった。
「馬鹿…。俺は、美奈と佐奈と一緒がいいんだよ。なぁ、これからは三人で暮らそう。俺が、ずっとお前達を守るから…、絶対に幸せにしてやるから…」
俺は、この時久しぶりの涙を流した。
もう何年も忘れていたような温かい涙だ。
美奈と佐奈も涙を流して抱きついてきた。
「…うん、私たちもお兄ちゃんと一緒がいい…」
俺は…俺たちは、三人で生きていこうと誓った。
今となっては懐かしい話だ。
今では、俺たちは三人で暮らし、三人で笑い、泣き、同じ時間を生きてきた。
俺はあれ以来、妹たちが可愛くて心配で、仕方がなくなってしまった。
「お兄ちゃん、何ボーっとしてるの? ご飯にしようよ」
俺はハッとした。
ついつい過去の妄想に耽っていたようだ。
「ん…ああ、そうだな、食べるか」
俺たちはいつも、ご飯の際は号令をかけてから同時に食事を開始する。
これが習慣となっている。
「お兄ちゃん、号令かけてよ」
「え、今日は俺か? それじゃ、せ〜の」
「いっただっきま〜す」
三人の声が重なる。
俺は時間がやばいので、勢い良くご飯をかき込んだ。
「お兄ちゃん、慌てて食べると消化に悪いよ」
美奈が心配そうに言う。
「平気だって、早く消化されちゃ腹持ちが悪いだろ」
「もう、お兄ちゃんたら…。どう、佐奈ちゃん、美味しい?」
「うん、美味しいよ。美奈お姉ちゃんは料理が上手だね」
佐奈は口に物を入れたまま答えた。
美奈は嬉しそうに笑った。
「ただの目玉焼きで、料理が上手いかどうかなんてわかるかぁ〜」
俺は意地悪に言った。
「ひっど〜い、お兄ちゃん。私だって頑張って作ってるんだよ」
頬を膨らませた美奈が俺を睨んだ。
「ははは、嘘だよ。とても美味しいよ、美奈」
俺は形勢不利と判断して折れた。
まあ、実際美味しいのだから、この言葉に嘘はない。
「それでよろしい、エッヘン」
美奈はない胸を張った。
佐奈は素早く箸を動かしているが、それとは対称的に、美奈はおしとやかに口に運ぶ。
だから、いつも美奈が一番遅い。
まっ、そんな所がまた可愛いんだけどね。
俺たちはいつも三人一緒に家を出る。
俺が真ん中で、両脇に美奈と佐奈が並んで歩く。
佐奈はともかく、美奈はもう中学2年にもなって、まだ俺と手を繋ぎたがる。
俺としては、嬉しい限りだ。
「美奈お姉ちゃんはいいなぁ〜。私も制服着てみたいなぁ〜」
羨ましそうに佐奈は、眉を垂れさせた。
「佐奈だって来年になったら着れるさ」
「そうだよ、佐奈ちゃん。来年までの我慢だよ」
俺と美奈の言葉に納得したのか、佐奈は「うん」と頷いた。
「でも、佐奈ももう中学生になるんだな。早いような遅いような…」
俺自身、美奈と佐奈が成長していくのは楽しみだ。
だが、子供らしさが無くなっていくのは少し寂しい。
まあ、今の所は二人とも身体は大きくなっているが、内面はまったく変わってないように思える。
俺は二人の笑顔を見るのが大好きだ。
そして、この日常が、他愛のない会話が、この一瞬一瞬が本当に幸せだ。
俺たちはT字路で、右と左に別れる。
二人は学校に、俺は海軍基地に行かなければならない。
俺はいつも、二人が曲がり角を曲がって見えなくなるまで見送るのが日課になっている。
二人も俺に手を振りながら歩いていく。
俺は、この瞬間が一番辛い。
美奈と佐奈が見えなくなると、不思議と不安になってしまうのだ。
俺は結局、二人が学校に入るまで尾行しないと気がすまない。
美奈の中学校から50mの所に佐奈の小学校があるので、佐奈を送った後で美奈は自分の中学校に向かっていく。
俺は美奈が昇降口に入って行くのを見届けた後、海軍基地へ全力疾走する。
遅刻するかしないかのギリギリなのだ。
今となっては、俺が妹思いの兄であることが周知の事実となっているからいい。
しかし、美奈が入学当時に同じことをしていて、警察沙汰になったことがある。
まあ、ただでさえ目立つ海軍の軍服の男が中学生を尾行しているのだから、当然と言えば当然だ。
周りの生徒からは、俺には忌まわしい異名がつけられている。
それは「シスコン少尉」だ。
だが、俺はそんなくだらないことは気にしない。
俺の大切な美奈が、佐奈が無事ならそれでいいんだから。
これが俺の日課だ。
俺は、美奈と佐奈のためなら何をしたっていいと思っている。
あいつらは俺の全てだ。
なぁ、美奈、佐奈。
「いってらっしゃい。俺の愛する美奈…佐奈…」
次回予告
「みなさん始めまして、美奈で〜す。次回は、何と私が同じクラスの男子に告白されちゃうの。それをお兄ちゃんに話したら、お兄ちゃんは大激怒。彼のところに殴りこむなんて言い出しちゃって…。私…どうすればいいのかな…。お兄ちゃんは大好きだけど、こういうところがたまに傷なんだよね…」
第二章「お兄ちゃんの彼氏撃滅大作戦」乞うご期待!
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