架空戦記
「佐藤中将の決断!」
〜突撃!特別航空戦隊 牡丹隊五章〜
ヤップに到着し、整備兵に緊急給油を頼むと、すぐに全パイロットを集めた。
「全員集合しろ。分隊長は分隊の被害を報告しろ!」
あの激しい空戦によりかなりの被害を被ったのは確実だろう。
第一分隊は被害なし、だが被弾による損傷は激しかった。
第二分隊は被害2機、分隊長機のみが助かった。
第三分隊は全滅、瀬戸曹長のために盾になった、桃山千春少尉の分隊だ。
第四分隊は被害1機、分隊長の佐々木忍少尉の機のみが散った。
第五分隊は被害2機、あの瀬戸泉曹長とその部下一名が散った。
第六分隊は、この空戦以前に全滅した清祥院由香里中尉の隊だ。
第七分隊は被害なしですんだ。
第八分隊は被害1機、三条歩少尉は天然のために生き残ったようなものか。
残存機は12機、それに佐藤機と鉄板機を足しても、残存14機。
当初の戦力の半数近くを失ったのだ。
八人の分隊長も、四人になってしまった。
佐藤大佐は編成を急遽変更することにした。
第一小隊の小隊長に八橋光中尉を任命し、5機で編成した。
第二小隊を佐藤大佐を小隊長として、4機で編成した。
第三小隊に綾部雪乃中尉を置き、5機で編成した。
各分隊長もそれぞれの隊に編入した。
だが、数多くの戦死者を出した事は随分とこたえているようだ。
ほとんどの人間が何も喋らない。
「恐らく、次の攻撃で全てが決まるだろう。私は諸君らを信頼している、それ故にはっきり言おう。生還は帰し難いのは確実だ。だが、ここで敵を止めねば本国の親や兄弟が死ぬことになるのだ!全員、気合入れてかかれ!」
「了解!」
彼女達に恐れは微塵も感じられなかった。
「大佐、私達は皇国のためなら命など惜しくはありません!先ほどの戦闘で散った、みんなの仇をとって見せます!」
八橋中尉が力づよく答え、全員が頷いた。
「だが、命は無駄にするな!私が後退命令を出したら、それに絶対従うように!いいな!」
「はい!」
その時、再び空襲警報が鳴り響いた。
「敵第二波接近!敵爆撃連合編隊が約150機接近中!」
先ほどと同数か、それ以上の数だ。
恐らく、他の島の攻撃隊と合流して来たのだろう。
「よし、各員の一層の努力に期待する!」
「了解!」
ビシッと全員敬礼すると、自らの機に走っていった。
「全機発進!」
素早く離陸し、全機が飛び立つと再び編隊を組んで飛び交った。
ヤップ航空隊は、牡丹隊を足しても残存26機・・、圧倒的に不利だ。
だが退くわけにはいかなかった。
今度は数十分飛行すると、敵機の編隊が見え出した。
「敵機確認!戦闘態勢をとれ!」
敵編隊の先頭は、やはりヘルキャットだ。
「行くぞ!各小隊、突撃せよ!」
突撃命令と共に、一斉に交戦に突入した。
先陣を切ったのは、西条少尉だ。
さすがは牡丹隊一と言われる腕前だ。
敵を巧みに避けながら、爆撃機へと向かっていく。
それを阻止しようと旋回するヘルキャットに、容赦なく零戦特型の20ミリ機関砲が火を噴いた。
尻を見せたヘルキャットは、ことごとく潰されていく。
しかし、ヘルキャット隊も馬鹿ではない。
すぐさまに編隊の中央部へ突入し、両軍入り乱れての交戦に突入した。
「泉と忍と由香里と千春の仇よ!」
と叫ぶと、八橋機は敵の後方に機関砲を直撃させた。
ヘルキャットは黒煙を吹き上げて墜落していった。
「ふん、みんなの痛みはそんなもんじゃなかったわ!」
八橋中尉は落ちていく機体に罵声を吐いて、次の目標を探し出した。
その時、後方から急速に接近してきたヘルキャットに気づいていなかった。
「しまった!後ろをとられた!」
緊急で旋回したが、尾翼に数発受けてしまった。
「くっ、出力が・・・」
「八橋中尉!右に回れ!」
佐藤大佐機が八橋中尉を撃った機を追撃し、撃墜した。
しかし、か細い煙を上げている八橋機は絶好の的だった。
「くっ!米国の外道共がぁ!」
そう叫ぶが、当然ながら声が米パイロットに届くはずもなく、集中的に銃撃をくらい落ちていった。
その頃、綾部中尉の小隊もかなりの被害を被り、綾部機と三条機のみになっていた。
「歩、大丈夫!」
「は・・はい、なんとか!」
ヘルキャットの波状攻撃に、綾部機が最初に火を吹いた。
「雪乃さん!」
「歩、私から離れて!早く!」
「で・・でも」
「いいから、あなたは私がいなくても、もう大丈夫よ!早く離れて!」
「わ・・わかった!」
三条機が綾部機から離れた瞬間に、綾部機は胴体から崩れて落ちていった。
「雪乃さぁん!」
落ちていく綾部機のコクピットでは、綾部中尉が微笑みながら敬礼していた。
「私が・・しっかりしてないばっかりに・・」
単調な動きになった三条機に西条機が接近した。
「歩、しっかりして!あなた、雪乃の死を無駄にする気!」
「だって・・だって・・」
凄腕の西条少尉も、三条機に集中していたばっかりに、上空の敵機を見逃していた。
垂直下降した敵機の銃撃をくらった西条機は、右翼が吹き飛んだ。
「きゃっ!歩、後は頼んだわよ!」
と言うと、急速に落下していった。
「時雨さん!私はどうすれば・・・」
三条機はとにかく機銃を乱射していた、もう敵に当たるならどれに当たろうと構わないという所か。
「くっ、落ちて下さい!落ちて下さい!」
しかし、無情にも弾丸を撃ちつくしてしまった。
もうカチカチっという機械音しかしないというのに、三条機は撃ち続けていた。
「玉が!私は・・・私は・・・」
少しの間うなだれていたが、キッと顔を上げると三条機は敵爆撃機に突撃していった。
「もう失うものは・・・何もない!」
三条機は一直線に突入していったが、無情にも対空機銃をまともにくらい四散してしまった。
ついに八人の分隊長が全員戦死してしまった。
鉄板機も敵の銃撃を左翼にくらい失速していた。
「鉄板大尉、その損傷じゃ無駄死にする、一旦退け」
「しかし・・」
「いいから退け、これは命令だ!」
「りょ・・・了解!」
もう誰も失いたくないというのが、佐藤大佐の本心だろうか。
これで牡丹隊は、壊滅したも同然だ。
今残っている牡丹隊の機は佐藤大佐の機のみとなっていた。
「くそ!ヤップ島に別の爆撃機隊が飛来しただと!」
混線する通信回線が確かにそう言っていた。
この戦力で陽動だったとは、まったく信じられない国力だ。
と思っていると敵もこの報告を受けたのだろう、意気揚々と後退していった。
その時、戦闘機の足止めに残ったヘルキャットの一機が、機銃を放ち、佐藤大佐機の風防を破り、肩に機銃弾が直撃した。
桃山千春少尉の悪夢が蘇るようだ。
敵が撤退し、空域を確認すると、友軍機は一機の紫電のみだったが、どうやら被弾していたらしく、しばらくすると墜落してしまった。
「と・・とにかくヤップに戻らねば・・・」
その時、計器も通信機も敵の機銃の被弾で停止してしまっていた。
これでは、帰還すべき方位もわからない、とにかく目測で飛ぶしかなかった。
長時間の空戦のために燃料は残り少ない、急がなければ・・・。
肩の痛みと出血で意識がなくなりそうになりながら飛行した。
佐藤大佐が飛行時間と距離を計算してみると・・・。
「くそ・・ヤップ島を通り越してる計算になる!方位が違ったのか・・・」
もう燃料もない、このまま着水して四散するか、はたまた上手く漂流できても出血多量で失血死するか、どちらにしても死が待っている。
「私も・・みんなの所にいくのか・・・」
薄れゆく意識の中で、佐藤大佐は牡丹隊での生活を思いだしていた。
そんなぼやけた視界の中に、小さな黒点が見えた。
航空機だ、敵に撃墜されてもどうせ死ぬなら同じだろう。
「もう・・ここまでか・・」
しかし、その機体についている日の丸のマークが眼に入った。
友軍だ!しかも零戦特型だ。
零戦特型は牡丹隊にしか配備されてないと聞いていた。
それに牡丹隊は自分以外生き残っていない。
鉄板機は、あの損傷だ。
とても迎えに来れる損傷ではないはずだ。
もしかしたら、トラックかパラオに配属されていたのかもしれないという推測を自分の中で立てた。
その零戦特型は、佐藤大佐機に隣接すると、微妙に翼をバンクし始めた。
ついてこい・・という意味だ。
太陽の反射で、コクピットは見えなかったが、なんとなく指をさしているのが見える。
「あの指の先に行けということか・・・」
意識が今にも飛びそうな最中、島が見え始めた。
「あれは・・ヤップだ!ヤップ島だ!」
隣接して飛ぶ零戦特型のコクピットに向けて、お礼のつもりで敬礼した。
相手も敬礼したようだ、そして旋回していった。
やはりヤップ航空隊所属ではないのか・・と思って見ていると、佐藤大佐は言葉を失った。
「あの・・機体番号は・・」
と言った瞬間、壊れたはずの無線機から聞きなれた・・、いや、今となっては懐かしい声が聞こえた。
「迷子になるなんて、どっちが子供ですか佐藤大佐・・・」
瀬戸曹長の声だった。
佐藤大佐は、無線機から目を離し、その機体を見たが、もう空の彼方へと飛び去り黒点になっていた。
無線機に何度となく叫びかけたが、返事はない。
やはり壊れている。
佐藤大佐はギリギリでヤップ島に到着した。
ボロボロの滑走路にようやく着陸すると、実染中将が迎えてくれた。
「佐藤大佐、ご苦労だったな・・・、彼女達には悪い事をしたな・・・」
佐藤大佐は、先ほどの件を言おうと思ったが、言い留まった。
やめておこう、あれは私の心の中にとどめておこうと考えた。
それに話しても信じてもらえるはずがない。
医務室で横になり、鉄板大尉が心配そうに見つめている。
薄れていく意識の中に、零戦特型で飛翔する瀬戸曹長の姿がはっきりと写っていた。
彼女だけではない、満面の笑みを浮かべて飛翔する少女達の姿がまぶたから離れる事はなかった・・・。
終幕
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