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架空戦記

「佐藤中将の決断!」

〜大和を守れ!佐藤艦隊、奮戦ス〜
 二章

 佐藤大佐は、全ての物事に踏ん切りをつけた。
 そして、周りの部下達でさえ、死ぬことを前提として、空気のような存在、あって無きがごとしの存在として認識して気を紛らわせることにした。
 それでも、佐藤大佐の中の部下達の面影は消えなかった。
 第一航空艦隊、牡丹隊、そして海神隊、その部隊の中で生き、死んでいった者達の姿。
 忘れようとしても忘れられない、いや、本能的に忘れてはならないと感じているのかもしれない。
 佐藤大佐は、瀬戸軍曹もどうせ死ぬ人間だ‥と思い込もうとするが、どうしても出来ない。
 前章で、希薄な存在に感じていたと記したが、あれも偽りの思いだ。
 本心は、最後の部下の生き残りである瀬戸軍曹と清流少尉に、生き残って欲しいと考えている。
 どうせ、この戦争は日本は‥、大日本帝国は負ける。
 それは、口には出せないが、誰しもが思っていることだろう。
「‥誰が思い込めるんだ。部下達が死ぬのが当然だなどと、誰が本気で考えられる‥」
 佐藤大佐は、無意識に呟いていた。
 佐藤大佐は、偽りの決心を消し去り、新たな決意をした。
 彼女達は、私が出来る限り生き残らせてみせる!
 勿論、佐藤大佐一人が努力しようと、生き残らせることが出来るかと言われれば疑問だ。
 だが、決意は固かった。
 そんな決意を固めたのとほぼ同時に、清流少尉と瀬戸軍曹が戻ってきた。
「大佐ぁ!完治されたんですね、本当に良かった」
 清流少尉が、瀬戸軍曹の歩みに歩調を合わせながら手を振って叫んだ。
 佐藤大佐も笑みを浮かべて、手を振り返した。
「ああ、みんなも元気になってくれて嬉しいよ」
 瀬戸軍曹は、微妙に佐藤大佐の雰囲気が変わったのに気づいていた。
 それは当然だ。
 今の佐藤大佐は、新たな決意を固めた後の佐藤大佐だからだ。
 何が違うのか解らなかったが、瀬戸軍曹は今の佐藤大佐の方が素敵だなと思っていた。
「よし、それでは城嶋中将のところへ行こう」
「はい、大佐」
 城嶋中将のいる司令官室に着くと、佐藤大佐は扉をノックした。
「入れ」
 いつもの聞きなれた短い返事が返ってきた。
「失礼します」
 佐藤大佐を先頭に、続いて二人が入室した。
 三人が整列し終えると、敬礼した。
 城嶋中将も軽い敬礼で返した。
「ご苦労、もう傷は大丈夫かね」
「はい、おかげ様で三人とも完治致しました」
「いや、諸君らが負傷した原因は、私の甘さにある。あの時、ドイツ軍の思惑を早期に見破っていれば‥」
 そこに瀬戸軍曹が割り込んだ。
「中将、ご自分を責めないで下さい。人の考えを読める人間などどこを探してもいません。それが軍という強大な物ならなおさらです」
「ああ、ありがとう瀬戸軍曹」
 佐藤大佐は、横目に瀬戸軍曹を見た。
 まったく、本当に瀬戸軍曹はいい娘だ。
 まだ12歳というのに、顔立ちは可愛らしいし優しい、軍人をやるには勿体ないこと極まりない。
「では、本題なのだが‥」
 と言うと、城嶋中将は、窓にかかるカーテンを開けて、港の方を指差した。
「あそこに何が見える?」
 佐藤大佐は、一瞬意味がわからなかった。
「大島守備艦隊が見えますが‥」
「いや、それもそうなのだが、その隣の艦隊だ」
 港の端の方には、数隻の軍艦が係留されていた。
 何を隠そう、海神隊に強襲をかけたドイツ艦隊だ。
 あの一件の後、あの事件がSSの独断で行われた物というのが判明し、同盟は崩れることはなかった。
 しかし、最早制海権を失った帝国海軍には、あの艦隊をドイツに帰すだけの余力がなかった。
 そのため、ドイツは、これらの艦隊を譲渡という形で引き渡すことにしたのだ。
 乗組員の帰還には、水上艦艇よりは多少安全な、潜水艦輸送をすることになった。
 しかし、それらも帰ってこれる保障はない。
 現に、出撃した潜水艦の内の大半は、一向に帰還する気配がないそうだ。
「あのドイツ艦隊が何か?」
「実は、あの艦隊は帝国海軍籍に変更されることとなった」
「はぁ‥」
 つまりは何が言いたいのかが掴めない。
「そこで、あの艦隊を君に任せたい」
「はっ!わ、私にですか!」
 佐藤大佐は驚いた、もう二度と艦隊司令の役職等は回ってこないと思っていたからだ。
「ああ、ちなみに、あれは譲渡されたとは言え、ドイツの艦隊だ。そこで帝国海軍籍にはなるが、あれも非公式の艦隊となる。艦の命名は君が決めたまえ、艦隊の名称もな」
 城嶋中将は笑顔で言った。
 佐藤大佐は嬉しそうに答えた。
「はい、帝国海軍の名に恥じぬよう努力します」
 瀬戸軍曹は、満面の笑顔の大佐横顔を見て喜んだ。

 港に三人で向かうと、自分たち艦隊を改めて見回した。
「空母一隻、巡洋艦一隻、駆逐艦三隻ですか。まあ戦えない戦力ではないですね」
 清流少尉が、太陽の光を遮るように、おでこに手をかざして言った。
「ああ、艦の命名だが、こんなのはどうだ」
「思いついたんですか、大佐」
「うむ」
 佐藤大佐は一隻づつ指差しながら言った。
「巡洋艦『佐久間』、駆逐艦『暗雲』『秋月』『西門』、そして空母『撫子』。どうだ?」
 何を隠そう、これらはあの事件で死んでいった、海神隊の幹部将校の名前だ。
 そして、その愛艦であった潜水艦の名からつけた名だ。
 ただ秋月は、帝国海軍駆逐艦に、その名があった。
 しかし、その駆逐艦秋月はレイテ沖海戦で沈んでおり、昭和19年12月10日の時点で除籍されているので問題はないだろう。
「素晴らしい命名です大佐。まるで、みんなが帰ってきたみたいです」
 瀬戸軍曹は、微笑みながら答えた。
「艦隊名はどうするか?」
「こんなのはどうですか大佐」
 瀬戸軍曹が、何かを思いついたようだ。
「佐藤独立乙女艦隊です。みんな女の子の名前ですから、これがいいかと思います」
「乙女艦隊か‥、よし、それで行こう」
 三人は、乙女艦隊の姿を見ながら笑った。
「(乙女艦隊か‥、本当にみんなが帰ってきたみたいだな‥)」
 佐藤大佐は、笑いながらも、必死に涙をこらえていた。

            三章へ続く


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