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架空戦記

「佐藤中将の決断!」

〜海神隊、決死の脱出作戦三章〜

 撫子の艦内は、銃声と硝煙が支配した。
 その中を、佐藤大佐率いる小部隊が走り抜けた。
 撫子は、巨大な潜水艦だ。
 今現在に至っても、制圧率は5割程度だった。
 人数が少ない海神隊の決死の抵抗が、制圧を遅れさせている原因の一つだ。
 各部に強固なバリケードを張り、抵抗を続けているのだ。
 佐藤大佐の前に、バリケードを盾に抵抗している少女が見え出した。
 バリケードの向こうには、数名のドイツ兵が銃を乱射している。
「おい、大丈夫か!」
「大佐、ご無事で!どういう事なんですか、突然、ドイツ兵がなだれ込んで来たんです!」
 少女は、三八式歩兵銃の弾を込めながら叫んだ。
「説明は後だ!ここを突破して、艦の外に逃げるぞ!」
 佐藤大佐は、身をかがめながら全員の顔を見回した。
「よし、暗雲少尉、清流少尉、敵を一斉に蹴散らせ!」
「了解!」
 暗雲少尉と清流少尉は、先ほど、佐藤大佐がボコボコにしたドイツ兵の持っていた短機銃を使用して、迎撃を開始した。
「佐久間大尉、瀬戸軍曹を護衛してくれ」
「はい、わかりました。雫、私から離れちゃ駄目よ」
「は、はい、恵美さん」
 先ほど奪った短機銃は3丁、暗雲少尉と清流少尉が一丁ずつ持っている。
 残りの一丁は、佐久間大尉が持っていた。
 佐藤大佐は、前方の敵の様子を伺いながら、脇の瀬戸軍曹を見た。
 このような白兵戦は、当然ながら初めてだ。
 それでも、隊員達は良くやってくれている。              だが、若い瀬戸軍曹には耐え難いのではないかと、佐藤大佐は思った。
 魚雷要員は、基本的に銃を携帯していない。
 それは、爆薬の塊である魚雷と接する役職であるからだ。
 これは、佐藤大佐が徹底した事だった、しかし、結果的に瀬戸軍曹は、丸腰であったがために、ドイツ兵に陵辱されかけてしまった。
 だが、裏を返せば、銃を携帯していなかったが故に、すぐに殺されなかったとも言える。
 佐藤大佐は、安堵感と後悔に支配されていた。
 それでも、瀬戸軍曹が無事だったのだから、安堵感の方が勝っているだろう。
「佐久間大尉、君の拳銃を・・」
「はい、どうぞ」
 佐藤大佐は、佐久間大尉の腰のホルスターに入っている銃を求めた。
 それを受け取ると、瀬戸軍曹に手渡した。
「いいか、この状況では、いつ誰が倒れてもおかしくない。瀬戸軍曹が危ないときに、私はもうやられているかもしれない、そういう時は、自分で身を守るんだ」
 瀬戸軍曹は、慣れない銃をぎこちなく受け取ると、大きく頷いた。
「はい、大佐」
「よし、いい返事だ」
 佐藤大佐は、瀬戸軍曹の頭を軽く一撫でした。
 佐藤大佐の小部隊は、現在は7名だ。
 ここのバリケードで抵抗している少女を足して、ようやくこの数字だ。
 もう殺されてしまった隊員を入れて考えると、艦内で抵抗している各部隊は、かなりの少人数という事になる。
 恐らく、佐藤大佐の部隊が、最も大きい部隊なのではないだろうか。
 そうしている間に、前方の敵は鎮圧された。
「大佐、やりました!行きましょう!」
 清流少尉が叫ぶ。
「よし、ハッチに急ごう!」
 再び、佐藤大佐の小部隊は走り出した。
 この頃には、各部の抵抗は弱まりつつあった。
 対空攻撃長の秋月少尉は、艦内食堂で二名の隊員と抵抗していた。
「秋月少尉!敵は増える一方です、もうもちませんよ!」
 一人の少女が叫ぶ。
「くっ、頑張るんです、ここで頑張らないと・・・」
 秋月少尉は、降伏は効かない事を理解していた。
 最初に攻撃を受けた時に、一人の少女が降伏しようとした、しかし、ドイツ兵はニヤリと笑うと、有無を言わさずに発砲したのだ。
 こんな物を見て、降伏が有効とは思えなかった。
 ドイツ兵の発砲した銃弾が、一人の少女の眉間を貫いた。
「あうっ!」
 少女はバタっと倒れこんだ。
 その死体を間近で目にした秋月少尉は、口を抑えると吐き気に襲われた。
「少尉!大丈夫ですか!」
 この間に、秋月少尉の隊に隙が生じていた。
 そこに、ドイツ兵が手投げ弾を投げた。
 柄がついた、ドイツ独特の手投げ弾、通称ポテトマッシャーと呼ばれていた手投げ弾だった。
 その手投げ弾は、秋月少尉の目の前に落ちた。
「!」
 艦内食堂は爆発煙で覆われた、無論、秋月少尉達は跡形もなかった。
 この海神隊の少女達は、白兵訓練は受けているが、死体を見慣れていなかった、これが盲点になろうとは迂闊だった。
 さらに悲惨だったのは動力室だった。
 西門中尉と3名の少女も、動力室で抵抗を続けていた。
 ここは動力室、言わば艦の心臓部だ。
 ドイツ軍は、この艦を奪取するつもりである以上、手投げ弾は使用しないだろう。
 だが、銃撃による集中砲火は、艦内食堂以上だ。
 西門中尉は、バリケードを盾に、撃っては身をかがめ、また撃っては身をかがめて抵抗していた。
 その内にも、右手の少女は、肩を撃ちぬかれた。
「きゃぁ!」
「大丈夫!坂上伍長、手当てをお願い!」
「はい、中尉」
 その坂上伍長と呼ばれる少女は、銃撃を止めると、すぐに負傷した少女の手当てを始めた。
 しかし、敵の銃撃は激しい。
 坂上伍長も数発の銃弾を受けて倒れた。
 さらに立て続けに、もう一人の少女も銃弾を受けて倒れた。
 ついに、西門中尉は一人になってしまった。
 西門中尉は、最後の最後まで降伏する気はなかった。
 だが、無情にも銃の弾が切れてしまった。
 銃撃が止んだ事を確認したドイツ兵が、一斉に突入してきた。
 そして、西門中尉に多数の銃口が向けられた。
 ここで、一気に撃ち殺すならまだマシだ。
 ドイツ兵は、あえて急所を外し、西門中尉に向けて一発ずつ発砲した。
 右腕、左腕、右足、左足と一発ずつ撃ちこまれた。
「あああぁ!」
 一発撃ちこまれるたびに、西門中尉は悲痛な声を漏らした。
 ドイツ兵は、一声悲痛な声が漏れるたびに、ニヤニヤと笑みを浮かべた。
 西門中尉は、息も絶え絶えになりながら、壁に寄り掛かるように耐えていた。
 西門中尉は、ギリギリと歯を食いしばっていたが、少しすると口元に笑みを浮かべた。
 背中の方に手を回したと思うと、隠し持っていた手榴弾を、床に勢い良くたたきつけた。
「しゅ・・手榴弾だ!にげ・・・」
 ドイツ兵の一人が「逃げろ」と言う途中に、手榴弾が爆発した。
 動力室のエンジンは、その爆発により誘爆した。
 撫子の後部が爆発し、撫子は大きく傾いた。
「うわっ!何事だ!」
 撫子は大きく傾き、佐藤大佐達の足を止めた。
「この揺れは・・、艦の後部の方で爆発があったようですね」
 佐久間大尉が冷静に分析した。
「後部の爆発・・、動力室か!」
「絵里さん・・・」
 瀬戸軍曹が暗い表情を浮かべた。
 佐藤大佐は、それを見ると、肩をポンと叩いた。
「非情かも知れないが、今は自分の身を守る事だけを考えるんだ」
 瀬戸軍曹は無言で頷いた。
「エンジンがやられたのならば、撫子は長くはもたない・・、行くぞ」
 ハッチまでは後少しだ、という所に一発の銃声が轟いた。
「くっ、敵か!」
 佐藤大佐の部隊は、一斉に身構えた。
 そこに現れたのは、あのメリッサ少佐だった。
 頭を抑えながら、壁に手をつけながらヨロヨロと現れた。
「逃がさなくってよ・・、私に逆らう者は、皆死ねばいいのよ・・!」
 清流少尉が叫んだ。
「もう、しつこいんだから!しつこい女は嫌われるわよ、オバサン!」
 この言葉が、メリッサ少佐を真の意味でキレさせた。
「だ、誰がオバサンよ!この小娘が!」
 メリッサ少佐は、狙いの定まらない銃を乱射した。
「・・繭、お願いね」
 清流少尉は、やれやれと言った感じで言った。
 暗雲少尉は素早く近づくと、見事なかかと落としを入れた。
 メリッサ少佐は、再びドタッと倒れた。
 佐藤大佐は、感服の眼差しを浮かべた。

              4章へ続く


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